「コンプライアンス遵守!危険な循環取引」について書いていきたいと思います。
・上司に他社の見積明細とか検収書を作れって指示されたけど、何かおかしくない?
・最近インテグリティを大切にとか会社に言われるけど、なんでインテグリティが重要なの?
新卒で会社に勤め始めた人も、キャリア採用で転職した人も、最近は入社してすぐにコンプライアンスについての教育を受けますね。
一般によく言われるコンプライアンスは「法令を遵守する」ことです。
ただし、企業に勤める社員には、「法律としては規定されてはいないものの、社会的なルールや企業倫理に従い企業活動を行う」という趣旨の意味合いも含まれています。
日本ではコンプライアンスほど話題に上りませんが、インテグリティもしくはビジネスインテグリティといった言葉もあります。
インテグリティを直訳すると「誠実」「真摯」「高潔」といった意味があります。
インテグリティはビジネスを行う上で、企業にも企業で働く社員にも求められる最も重要な資質、価値観と言えます。
ドラッカー先生も「真摯さに欠けるものは、いかに知識があり才気があり仕事ができようとも、組織を腐敗させる」と指摘されています。
これからの企業活動では、コンプライアンスはもちろんインテグリティを社員一人一人が常に意識して活動することが求められています。
そういった意識が薄いと知らない間に不正取引や不正会計に巻き込まれてしまったりします。
そのような不正取引のうちで有名でかつ悪質な取引に「循環取引」というものがあります。
今回は「コンプライアンス遵守!危険な循環取引」について紹介してきたいと思います。
コンテンツ
1.循環取引とは?
循環取引は以前からIT業界で行われていた不正な取引です。
そうだとすると、経営コンサルタントには関係ないと思われるかもしれません。
経営コンサルタントは業務改革や新規事業の構想を策定した後に、PMO(プログラムマネジメントオフィス)等で後工程のシステム開発・導入のプロジェクトの管理を行うことがよくあります。
そういう際にも、怪しい取引にクライアントが巻き込まれないよう、知っておく必要があると思います。
簡単に説明すると、最初の売主から取引が繰り返され、最終的に最初の売主が買主となるような連続的な取引を指します。
例えば、最初の売主A社がB社に商品Xを100万円で販売し、B社は100万円で仕入れた商品XをC社に110万円で販売し、C社は110万円で仕入れた商品Xを最初の売り主A社に120万円で販売するというものです。
さらにこの循環が、2巡3巡していきます。
<図 循環取引のイメージ>
2.循環取引に手を染める理由
しかし、なんでこんな面倒なことをするのでしょうか?
主な目的は以下のようなものがあります。
- 売り上げを水増しする
- 資金を調達する
2点について詳しくみていきましょう。
売り上げを水増しする
期末になって売上目標を達成できない営業部門や営業担当者が、売上目標を達成させるためにこのような取引に手を染めてしまう場合があります。
先のような循環取引では、実際には商品Xはモノとしては実際には動かず、伝票だけが動く場合も少なくありません。
すると、実態の取引が無いにもかかわらず、売上と仕入れが計上され、売上だけが上積みされていくことになります。
手っ取り早く資金を調達する
お金が必要なら銀行から借りれば良いじゃないと思いますよね。
銀行等金融機関からの借入ができなかったり、仕入れ業者等のへ支払いの期日までに資金の借り入れが間に合わない場合などに、手っ取り早く資金を調達する方法として手を染めてしまう場合です。
循環取引を開始して、架空で販売した対価を手形でもらい、もらった手形を割引して現金化するようなことで当面の資金を調達するのです。
3.なぜIT業界で起こりやすいのか
この循環取引で大きな不正が報道されると、大きく取り上げられる事件はIT業界のものが非常に多いです。
最近も4年間にわたり1,000億円近い循環取引の事件が報道されましたが、IT業界を舞台にしたものでした。
では、なぜIT業界で起こりやすいのでしょうか。
- 取引の内容が複雑
- 取引の関係が複雑
- モノが動かない取引
以上の3点について詳しくみていきましょう。
取引の内容が複雑
情報システムの構築は簡単なものでも、ハードウェアやソフトウェアやネットワークに加えて、システム開発が加わります。
ハードウェアのように目に見えるものもありますが、システム開発のように目に見えない取引もあります。
システム開発も、一括請負開発のように成果と対価が分かりやすいものもありますが、業務委託契約のように成果と対価の結びつきが難しいものがあります。
結果として、取引の内容が複雑化して、全てのモノやサービスとお金の流れを抑えることは難しくなることが理由の一つにあります。
取引の関係が複雑
先ほど紹介したように、情報システムの構築は簡単なものでも、ハードウェアやソフトウェアやネットワークに加えて、システム開発が加わります。
以前は、全てを1社が請け負うということもありましたが、今ではそれぞれ専門の会社が担当することが多いです。
大きなプロジェクトになると取引相手は数十社を超え、二次、三次と孫請けも多層化することも良くあります。
そのため、不正が発覚しにくい部分があります。
モノが動かない取引
納品や検収もルールが非常に厳しくなっているものの、メーカーから直接お客様に直送するということはあります。
つまり、中間で卸している会社の中には、商流にはのっているものの、実際の物流、モノの流れには関与していないといったことが起こりえます。
そういうケースだと、中間に入る会社の社内チェックも甘くなりがちです。
このような状況が絡み合うことで、IT業界を舞台にした循環取引が後を絶たないと考えられます。
4.循環取引でどんな罪に問われるか
当然、実態の取引が無いところで売上を水増ししているので許される行為ではありません。
まず、上場企業の場合だと、売上の水増しになるので、有価証券報告書の虚偽記載となります。
NYSEに上場するインテグリティを重視する会社では、交通費等の水増しでも経費が増えることで市場・株主への利益の虚偽報告となるので、金額の多寡にかかわらず虚偽報告をした社員は厳罰に処されるとのことです。
これらは、金融商品取引法や証券取引法の違反となる可能性があります。
社員が会社を欺いて取引していたとすると、当然、詐欺や横領、私文書偽造等で訴えられる可能性もあります。
役員だったりすると、会社や株主から損害賠償請求を受けたりします。
また、会社として売上を水増しして虚偽報告して融資を受けていたりすると、金融機関から訴えられる可能性もあります。
5.まとめ
このような不正取引や不正会計に巻きまれないためには、働く社員一人一人がコンプライアンスやインテグリティの意識を持つことが重要です。
- 上司の指示だからそのまま処理した
- 前からやっている手続きだからそのまま処理した
- 皆がなんとなくやっているから問題ないと思ってそのまま処理した
というように、問題意識無く仕事をしていると、いつの間にか不正会計や不正取引に巻き込まれていたなんてことになりかねません。
ドラッカー先生が言うように、会社も自分も腐敗させないために常に真摯に物事に対応する必要があります。
皆さんも、インテグリティはビジネスの基本と肝に銘じておくようにしましょう。
言われるからではなく、自ら進んでコンプライアンスやインテグリティを学ぶようにしましょう。