「コンサル活動でのデータ収集方法及びSTEP」について書いていきたいと思います。
・今度役員にインタビューするんだけど、どんなことに気を付ければ良いの?
皆さんも「悪魔の証明」という言葉を聞いたことがありますよね。
中世から言われている言葉で、証明することができない、もしくは、証明することが非常に困難なことを指して、比喩的に悪魔に例えています。
最近だと、「存在しないものを証明する」ことと同義で使われることが多いですね。
例えば「黒い白鳥」や「ツチノコ」が存在しないことを証明するということです。
「存在するもの」は証拠を示せばよいですが、「存在しないもの」の証拠を提示することはできないですよね。
コンサルティングの活動での仮説検証も、こんな「悪魔の証明」にならないよう、仮説の設定や検証方法も考えないといけないですね。
そこで今回は、基本の基本の中から、「コンサル活動でのデータ収集方法及びSTEP」というテーマについて書きたいと思います。
コンテンツ
1.データ収集の事前準備
まずはじめに、この記事で使うデータについて、少し説明しておきたいと思います。
厳密にいうとデータと情報は別物ですが、仮説の検証で扱うファクトにはデータも情報も含まれます。
そこで、今回のブログの記事では、ファクトとして扱うデータと情報を総称してデータと呼びたいと思います。
では、仮説を検証するために、どのようにデータを集めればよいでしょうか。
何でもかんでも集めれば良いという訳ではありません。
そこで、経験のあるコンサルタントは、プロジェクトのはじめの段階で、まず仮説の立案に時間をかけます。
次に、仮説の検証となるデータ収集の計画を行います。
どのような仮説に対して、どのようなデータをどのように収集していくのか、時間をかけてデータ収集の計画を作ります。
こうすることで、より精度の高い作業計画に展開することが可能になります。
よって、提案の段階から仮説をベースにデータ収集計画を織り込んだ作業計画を提案しておくことが必要になります。
<図 データ収集サイクル>
データ収集を誤って以下のような状況に陥ってしまったらどんなことが起こるでしょうか。
- 問題事象を把握し、解決するために必要なデータが漏れている
- データが不必要に多く、事象の把握や分析が困難である
それぞれみていきましょう。
問題事象を把握し、解決するために必要なデータが漏れている場合
このような場合であれば、当然導かれる結果が誤った解決策になったり、データで検証されない内容になってしまいます。
報告会などプロジェクトの責任者から、「確かにアイディアは良いと思うけど、きちんと定量的に検証されていないよね!それなら高いお金払わなくても自分たちでいくらでもアイディアでるよ!」とか、厳しく追及されたりします。
データの収集・分析の作業のやり直しの工数は馬鹿にならないものになります。
もう一度、仮説を洗いなおして、収集のお願いをして、分析しなおしたりと、最初に作業した時と同じような工数がかかります。
十分にデータ収集プランが練られていないでプロジェクトを進めると、データが不足していることがプロジェクトの後半に発覚します。
プロジェクトが進行して、データ分析などに没頭していると見落としがちなことです。
データが不必要に多く、事象の把握や分析が困難である場合
不必要なものも含めてデータが多すぎると、これも結果として不必要な作業のための工数をプロジェクトチームに課すことになります。
仮説などと関係が低そうなデータが多かったりすると、その解釈や分析方法の検討に時間がかかるし、当然しなくても良いデータの分析をすることに工数がかかります。
結果として、必要以上に報告書の作成などに時間がかかることになります。
たくさんデータをもらってしまい、中々良い結論に達しない場合、プロジェクトチームは、
- こんなにいっぱいデータをもらっている
- こんな複雑なデータを分析している
など、データ分析の結果ではなく、データ分析の過程をプレゼンで説明しがちになります。
コンサルタントには、努力ではなく、結果へのコミットが重要です。
2.データ収集方法の整理
では、このような隘路に迷い込まないために何をすれば良いでしょうか。
そのために使用するフォーマットが、「データソースマトリックス」です。
データソースマトリックスを用いて、どの仮説のどのキークエスチョンに対して、誰から聞く、どのようなシステムから入手するといったことを整理します。
このようにデータソースの収集計画を精緻に検討することで、よりぶれの少ない作業計画を策定することが可能になります。
<図 データソースマトリックス イメージ>
このキークエスチョンに対して、
- どのようなデータが必要か?
- どこから(誰から)入手するか?
- 分析用にどのように変換・統合するか?
- いつまでに入手する必要があるか?
- 収集する担当者は誰で、誰が責任をもって分析するか?
3.データ収集方法
データを集めるといってもそう簡単なものではありません。
例えば、売上のデータを部門別や商品別、顧客別やチャネル別等などで分析したいと思っても、分析しやすい形でデータを入手することは困難です。
企業には情報システムが入っているし、決算も行っているし、こういうデータはきちんと整備されているイメージを持っている方もいると思います。
しかし企業の情報システムは、部門別や商品別にシステムが異なっていたり、システム毎にコードの体系が違ったり、管理されているデータの粒度が違ったりとか様々です。
そこで、どこから、ということと合わせて、仮説を検証するために、どのようなデータを入手すべきかを検討します。
情報システムのデータように制約はあるものの、データとして分析しやすいものもあります。
しかし、仮説を検証するためには、情報システムのデータだけでは検証することが難しい仮説もあります。
そこで、以下のような方法から適切な方法を選択します。
- インタビュー
- フォーカスグループインタビュー
- 調査/質問票
- 観察
- 公開されているデータ、購入可能なデータ
また、それぞれの調査の対象を、クライアント社内、コンサルティングファーム内、外部データソースという観点から検討します。
それぞれについてご紹介します。
インタビュー
最もポピュラーな方法です。
あるべき姿や方針の仮説をクライアントのマネジメント層にインタビューしたり、業務プロセスの課題の仮説を現場の管理職に確認したりと、通常とられる手段です。
また、コンサルティングファーム内の特定分野や特定業種の専門家の意見を聞くなどもあります。
フォーカスグループインタビュー
これは、市場調査などを行う時によく使う手法ですが、個々の人へのインタビューを実施するのではなく、特定の条件でサンプリングしたセグメントを代表する少人数のグループに対して行います。
クライアント社内であれば、特定地域や特定業種を担当する営業担当者のグループを集めるとか、社外であれば、特定の年齢や性別、職業の人たちを集めるなどして、一定量の意見を比較的短時間に集める時に使います。
個別のインタビューに対して、情報の質はある程度下がるものの、大量のグループにアンケート調査をするよりは深いデータを入手することが可能になります。
調査/質問票
これは皆さんも良く馴染みのある、アンケート等質問票による調査です。
クライアント社内でも、例えば個々の人がどの業務にどのくらいの時間を使っているかを調査する「業務量調査」ということをコンサルタントはよく行います。
また、社員が会社や業務にどの程度満足しているかという「従業員満足度(ES、英語のEmployee Satisfaction)」調査を定期的に行っている企業も少なくありません。
最近では、インターネットを使って一定条件でサンプリングした人に短期間でアンケートに答えもらうようなサービスもあるので、広く様々な意見を収集できるようになっています。
観察
「観察」というと不思議に思われるかもしれませんが、業務をしている人の働き方を事務所や工場などの現場を訪問し、まさしく観察するのです。
直接現場の働き方を観察することで、インタビューなどでは分からない現場で非効率を生んでいる課題などを発見することができます。
大抵、人は自分自身がやっていることに対して疑問を持っていないことが多いので、第三者の目で観察することで多くの気付きや発見を得ることができます。
公開されているデータ、購入可能なデータ
ご存知のように、インターネットや書籍をはじめ、様々なデータを入手することが可能です。
また、少し高額にはなりますが、個別の領域の調査データを購入することも可能です。
入手できるデータの質や深さとコストと手間などを勘案して、適材適所でどのようなデータをどのように入手して分析するか検討してください。
このあたりを少し間違えると高いお金を払ったけど、何の役にもたたなかったなんてことは起こりがちです。
4.最もポピュラーなインタビューのSTEP
コンサルティング活動の中で、最もよく使う手法であるインタビューについてもう少し詳しくご紹介します。
インタビューをする際は、その準備が最も重要です。
仮説も十分に立てずに、片っ端から役職者にインタビューをしたりするコンサルタントもいないことはないです。
しかし、既にご紹介したように仮説検証に必要なデータは必要にして十分集めることが重要です。
そこで、インタビューを進めるSTEPにおいてのポイントを何点かご紹介します。
事前準備
これはすでにデータソースマトリックスで検討している内容ですが、誰に何を聞くのか検討します。
具体的な質問事項を個々のインタビューされる方毎にチェックしていきます。
インタビューする際は、個々人毎に何を聞き、何を検証するかを記載した、インタビューガイドを作成します。
リハーサル
簡単でも良いので、実際のインタビューを行う前にリハーサルを行います。
個々のインタビューの前に、適切な質問が準備されているかなど一通り確認をします。
オープニング -最初の数分-
インタビューの最初の5分で、インタビューの成否が分かれるといっても過言ではありません。
相手を尊重しつつも、アイスブレーカーなどを交えながら、雰囲気作りを行います。
忙しい中インタビューに駆り出されるマネジメントも少なくないので、なるべく良い雰囲気づくりをすることは重要です。
一般的には、以下を行います。
- 自己紹介をする
- プロジェクトのアウトラインを紹介する
- インタビュー目的を説明する
- インタビュー結果をどのように利用するかを説明する(時に合意をもらう)
また、できれば二人一組でインタビューに臨むのが良いと思います。
そして、それぞれの役割をきちんと決めて、それぞれの役割に集中するのが良いでしょう。
大抵はインタビューをする人と、メモを取る人と役割分担します。
インタビューをする人は頭脳をフル回転させて、聞くべきことをきちんと聞き切ります。
ノートをとる人は、細大漏らさずノートを取ります。
また、ハイレベルなマネジメントにインタビューする際は、なるべき経験豊富なシニアなコンサルタントにお願いしたほうが良いと思います。
いきなりいきのよいコンサルタントがどんどん質問を投げかけては、中々うまくいくものも上手くいかなくなります。
冒頭のアイスブレーカーや、ハイレベルの質問については、なるべく経験豊かなコンサルタントに行ってもらうほうが上手くいくと思います。
インタビュー
さて、オープニングが終わったら、インタビューでどんどん質問をしていきます。
ここでも、聞き方によっては、相手にプレッシャーをかけてしまうこともあったりします。
逆に、好戦的な態度で取られる方も少なくありません。
そこでインタビューの際に心掛けておきたいポイントをご紹介します。
- オープンクエスチョンから始める
インタビューをする際にオープンクエスチョンをあまりお勧めしないこともありますが、まずは、「~についてどう思われますか」など、自由に発言できる雰囲気も重要です。 - 具体的に聞きたい質問を投げかける
オープンクエスチョンで日頃思っている思いを話してもらったら、その後に具体的なインタビュー項目の質問をします。
話があまり具体的にならないような場合は、条件を設定して、「もし~のような条件でしたら、どのように思われますか?」というように、「what if?」の質問をして、話しやすい状況を作りましょう。
また、具体的な数字などを確認する時は、明確に「〇〇ですね?」と確認することが重要です。 - 分かりにくいことは絵に描く
お話を聞いただけではわかりにくいことは、絵に描いて確認すると良いでしょう。
例えば、A4の白紙のコピー用紙等を数枚いつも持っておくと役立ちます。
予め関連しそうな業務プロセスの図や情報システムの構成図等が特定できるのであれば、それらを手持ちで持っておくことも有効です。 - 重要なことは復唱する
重要な項目についての確認や分かりにくい内容の確認を行う時は、「今のお話は、〇〇ということで良いですよね?」と、復唱したり、自分の言葉で言い換えたりして、確認するのが良いと思います。 - 聞きにくいことは相手から話してもらう
意見が分かれ、議論を呼びそうなことは、あえて「意見をお聞かせください」というように、相手から自分のスタンスを話してもらうようなことも重要です。
結構、人が話したことは、話している状況や文脈でうまく理解しきれないことも多いので注意が必要です。
ちょっとしたテクニックですが、実践で使われると結構役に立つと思います。
クロージング
いよいよインタビューも終わりです。
終わりの時間はきっちり守るようにしましょう。
忙しい人を拘束しているのですから、時間がきたら必ずインタビューから解放してあげてください。
次の仕事や約束に影響が出ては、上手くいったインタビューの印象も台無しになってしまいます。
また、以下のポイントを忘れないようにしましょう。
- オフレコの必要性がある内容の有無について再確認
- インタビューの際に言及された資料やデータがあれば、共有してもらえるよう依頼
- 追加で別の方へのインタビューが必要になった場合は、忘れずに紹介を依頼
- 追加での質問が必要になった時にお時間を頂けるかの確認
- インタビューでお時間を頂いたことに対するお礼を伝える
チームでの総括
インタビューが終わった後は、議事メモ等形式的に資料をまとめるほかに、インタビューが終わった後は、必ずチームが集まって総括するようにしましょう。
総括では以下のことを行います。
- チーム全員でファクトの確認
一緒にインタビューに出ていた人の間でも、文脈やニュアンスで受け止め方異なります。
ファクトをベースにチームの意識を一つにすることは重要です。 - キークエスチョンの確認
必要なキークエスチョンにきちんと答えがもらえているか確認しましょう。もし、重要なキークエスチョンが残っているようでしたら、追加で確認するようにしましょう。 - ファインディング(気づき)の議論
インタビューを通して、確認できた新しい事象や意見、気づきなどを議論しましょう。新しい気づきにより、新しいヒントが得られます。 - 仮説の見直し
得られたファクトやファインディングで仮説が検証できたか確認しましょう。否定された仮説については見直しし、軌道修正を早めにしましょう。
クロスチェック
回答いただいた内容が曖昧だったり、他の人のインタビュー結果と異なるような場合には、必ずクロスチェックをして、裏取りしてください。
5.まとめ
ビッグピクチャーを描いて、クライアントに提案することはコンサルタントの醍醐味かもしれませんが、描いたビッグピクチャーがデータで検証されていなければ、ただの絵に描いた餅にすぎません。
データの収集は地味で大変ですし、インタビューは慎重な中にも聞きにくいことを聞いていく勇気が必要です。
ただ、このような積み重ねがあって初めて、コンサルタントが書く絵に命を吹き込むことができると思います。
定性分析、定量分析の両面から著されている書籍です。ご参考に手に取ってみてはいかがでしょうか。
少し古い本ですが、とても参考になりますので、こちらも是非読んでみてください。