最近話題の「DX戦略」について書いていきたいと思います。
・DXで何が変わるの?
最近よく「DX」という2文字を新聞やビジネス誌等で見かけませんか?
「DX」とは、Digital Transformationの略です。
デジタル技術を活用して、新しいビジネスモデルを創出したり、AIやRPA等の技術を駆使して業務プロセスを自動化し徹底した効率化を実現したりすることです。
先進的なデジタル技術を活用して、売上向上や経費削減など企業や事業の業績に貢献することと言えると思います。
ただ、IT(Information Technology)をはじめとするデジタル技術を活用してビジネスモデルの変革や業務プロセス改革をするというのは経営コンサルタントからすると、それほど目新しい要素ではありません。
しかし、なぜかここ1~2年非常に注目されているキーワードです。
個人的には、Buzzwordとして流行しているようにも思えるのですが、重要なテーマでもあるので、「DX」についても少し触れてみたいと思います。
では、「DX戦略」について紹介していきたいと思います。
コンテンツ
1.DX戦略とは?
DXとは、Digital Transformationの略で、デジタル技術を活用して、ビジネスモデルを創出したり業務プロセスを変革したりすることで、売上向上や経費削減など企業や事業の業績に貢献することです。
この「DX」という言葉が注目されるきっかけを作ったのは、経済産業省が2018年に発効した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開」というものがあると思います。
「多くの日本企業は、DXについては考えているものの、様々な理由で既存のシステムを使い続けており、2025年までにDXを実現できないばかりか、2025年以降最大12兆円/年の経済損失が生まれる可能性がある」というものです。
このDXレポートに注目が集まると期を同じくして、AIやIoT、5Gといったデジタル関連技術のビジネスシーンの実用化が現実味を帯びてきたことが、「DX」をさらに後押しをしているように思います。
では、この「DX戦略」とは何でしょうか。
「DX戦略」とは、DXを実現する上でとるべき戦略として、以下を実施することです。
- デジタル技術を活用したビジネスモデルの策定
- その実現に必要となる仕組み(KOPT)の検討
- 実現に向けたロードマップと必要となるヒト・モノ・カネの配分の仕方の策定
しかし、このDX戦略を検討していく上で重要な要素があります。
その最も重要なものが、顧客価値(Customer Value)、もしくは、顧客提供価値(Customer Value Proposition)です。
DX戦略を考える起点は顧客です。
- 顧客は企業や事業にどのような価値を感じてくれるのか
- 顧客に対してどのような価値を提供できるのか
以上をDX戦略の核として検討することが必要です。
そして「DX戦略」としては、その顧客提供価値を実現するために、
- 顧客接点で提供するサービス
- 顧客接点でのサービスを支える業務プロセス
にいかにデジタル技術を活用するかということが重要となります。
例えば、amazon.comを例にみると、当然EC事業としてパソコンやスマホ、タブレット等を通してのサービス提供ということもあるし、Kindleのような専用端末でのサービスの提供も行っています。
最近だと「Amazon Go」のような「レジ無しコンビニ」を展開していますが、このようなサービスもデジタル技術を抜きには実現することはできません。
また、その顧客接点でのサービスを支えるために、様々な先進技術を実装した物流拠点や物流会社等と連動したシステム基盤も欠かすことができません。
2.DX戦略を支える「SoE」と「SoR」ってなに?
このように、「DX戦略を」を支えるものには、大きく2つのグループがあることに気が付かれますよね。
顧客接点でのサービス自身の実現を支える仕組みと、顧客接点でのサービスを裏方で支える仕組みです。
これを情報システムの世界に限定すると、以下のように言います。
- 顧客接点でのサービス自身の実現を支える仕組み:SoE(System of Engagement)
- 顧客接点でのサービスを裏方で支える仕組み:SoR(System of Record)
例えば、日本航空(JAL)のSAKURAプロジェクトやみずほ銀行のMINORIの構築等の企業の業務の根幹を支える基幹システムつまり「SoR」系の情報システムの大規模システムの構築が成功裏に稼働しています。
しかし、これまでも問題なく動いている基幹システムをなぜ今、巨額の投資をして再構築しようとしているのでしょうか。
これらは将来、高度な「SoE」を提供していくための橋頭保となる重要な取り組みと位置付けられます。
3.どのようにDX戦略を策定するの?
このようなDX戦略をどのように策定するのでしょうか。
コンサルタントはどのようにこのDX戦略を紐解いていくのでしょうか。
<図 DX戦略策定の方法論>
この図で表しているのは、基本形となる方法論です。
「攻めのテーマ」「守りのテーマ」とありますが、DX戦略としては、基本は攻めのテーマが基本です。
しかし、守りの要となる「SoR」に関する検討も欠かすことができません。
特に、「SoR」には、既存の基幹システム含まれることが多く、攻めと同時に守りもきちんと検討する必要があります。
例えば、どんなに素晴らし顧客サービスをamazonが提供しているとしても、モノが約束した日付に届かなかったりとか、請求される金額が発注した金額よりも多かったりしたら、誰もamazonを利用しなくなりますよね。
よって、将来のあるべき姿、例えば新しいビジネスモデル等の検討と合わせて、
- 自社の情報資産の棚卸・評価
- 自社ITケイパビリティの棚卸・評価
を行います。
一方で、「DX戦略」を支えるのは言うまでもなく、先進的なデジタル技術です。
先進のデジタル技術をいかに活用するかという点について、先進技術をスキャニングし利用可能性を評価する「テクノロジー・スキャン」といった活動も必要となります。
これらを総合して、「ビジネスアーキテクチャ」「システムアーキテクチャ」を策定し、「ロードマップ」と「実行計画」を策定します。
4.DX戦略を実現した事例
例えば身近なところでは「鉄道のチケットレスシステム」はDX戦略を実現している典型的な事例を言えると思います。
今年(2020年)の2月に、JR東日本、JR北海道、JR西日本は共同で、「新幹線eチケットサービス」を発表しています。
2020年の3月14日から始まる「新幹線eチケットサービス」により、スマートフォン等による列車の予約が可能となり、改札を通る際は今持っている交通系ICカード(Suica等)を利用して、新幹線自動改札機にタッチすることで、改札・乗車が可能となるとのことです。
これにより、東北・北海道、上越、北陸、山形、秋田の各新幹線にスムーズに乗車できるようになります。
同種のサービスをJR東海では、東海道新幹線を対象に2001年から東京-新大阪間でサービスを開始しました。
私も、以前は実家と東京を行き来するのに、みどりの窓口に並んで座席を予約・購入していました。
また、予約の変更をするにもみどりの窓口に並ぶ必要がありました。
このサービスを使うまでは、連休や年末年始、お盆の時期に新幹線を予約しようとすると、本当に時間がかかって大変でした。
しかし、このエクスプレス予約のサービスを使い始めてからは、その便利さに驚きました。
実家のある岡山に帰るのが劇的に楽で便利になり、実家に帰る予定を柔軟に組めるようになり、かなり時間を有効に活用できるようになりました。
JR東海がサービスを開始した2001年当時はスマホも無く、携帯電話を利用したサービスだったようですが、みどりの窓口に並ばずに、新幹線の座席を予約・購入・決済でき、自動改札を通らなければ、列車が出発するまで変更も可能となりました。
段階的に、ICカードが導入されて実質的なチケットレスシステムとなったり、社内での検札がなくなり、社内でゆっくり本を読んだり、睡眠をとったりすることができるようになりました。
また、社内でWi-Fiが使えるようになったり、PCやスマホ向けの電源が使えるようになったのも同じような理由からのようです。
それは、今から20年前に新幹線のお客様にどのような価値提供をするかということから始まった取り組みだということです。
やはり「DX戦略」の起点はお客様なのですね。
5.まとめ
今回、取り上げたみずほ銀行のMINORIのプロジェクトは、試算によると、35万人月、4,000億円以上が投入されたという日本では類を見ない巨大プロジェクトだったそうです。
金融機関にとっては、情報システムがサービスの根幹となるため、このような巨額の投資となっておりますが、このような投資がなければ、今後の新しい金融サービスの提供が困難になるという判断から、このような投資に踏み切ったとのことです。
ご紹介したように、お客様に価値提供を行う「SoE」の実現には、その裏でサービスを支える仕組みである「SoR」への投資を欠くことができなかったということです。
以下の本は、みずほ銀行のDXへの取り組みの全貌について書かれた本で大変参考になると思います。