「RPA導入前にするべきこと」について
書いていきたいと思います。
・ロボットに夜間・週末に作業させるためにはどうすれば良いの?
・似たような業務があれば1回作ったロボットって他でも使えるの?
最近、新聞や日経コンピュータなどの専門誌でRPAの事例などの記事をよく見かけます。
RPAのツールや導入された企業の方が講演されているセミナーも結構開催されています。
そこでは、「業務を自動化することで多くの工数を削減することができた」という成功事例が多く紹介されています。
一方で、クライアントを訪問すると「RPAを導入し始めてみたがあまり上手くいっていない」という話を聞くことも多くあります。
なぜ、RPAの導入はメディアで騒がれているほどには上手くいっていないのでしょうか?
クライアント先でお聞きしたお話を整理してみると、PoCで実験的に導入されている企業は結構多いのですが、本格的に導入されている企業はほんの1割程度という状況でした。
始めてはみたものの、それほど簡単には上手くいかないというのが実態だと思います。
RPAの導入を行うには、開発や運用等のシステム的なルールの整備等も必要ですが、まずロボットを作り始める前に、業務をきちんと整理する必要があります。
そこで、RPA導入前にするべきこととして「業務プロセスの無駄取りと整流化の5つのポイント」について、ご紹介したいと思います。
コンテンツ
1.自動化対象業務の選定と優先順位付け
ロボットの自動化を検討する際に重要なことは、「ロボットに処理させる業務が適切かどうか」ということを評価することです。
これを見誤ると、
- 効果が出ると思ってやってみたけど全然効果が出ない
- ロボットにやらせようと思ったけど難しすぎて開発ができない
という事態に陥り、途中で頓挫してしまう可能性が高くなります。
※以下の記事でロボットが得意な業務と不得意な業務について説明しています。
http://nanami0616.com/whats-rpa1/
そのため、以下の手順を踏まえてロボットで処理させるのか否かを検討します。
- 部門の業務の棚卸を行う
- 業務を一覧化・視える化する
- その上で業務の特性を見極める
その際は、ロボットを開発するための費用や工数よりも「費用対効果がどのくらい得られるか」ということを試算します。
毎回の業務処理時間が短くても、毎日処理したり、社内で多くの人が処理している業務は大きな効果が得られることができます。
そのような業務は得てして、ロボットの開発も簡単な場合が多いです。
一方で、1回の業務処理時間は長いけど年に数回しか処理しない業務だと、一見するとその業務を担当している人の業務は効率化されても、全体からすると大きな効果が得られないことが多いです。
また、このような業務を処理するロボットの開発には、非常に多くの工数を必要とする場合が多いです。
そこで、個々の業務をみるのではなく、「時間の幅」「組織の幅」で拡大して俯瞰し、「どの業務を自動化することが最も企業にとって良いかどうか」について考えてみてください。
組織の幅:個人や課とかではなく、部や本部、できれば全社でみること
2.業務の整流化
皆さん、日常の業務は何気なく処理をしていて、業務上でヒアリングしても「簡単なことしかしていないです」とお聞きすることがとても多いです。
しかし「その手順を文章にしてみましょう」と言うと、上手く書けない場合が少なくありません。
そこで、まず普段どのようなことをしているか業務を整理することから始める必要があります。
業務の整理を始めてみると
- 価値を生まない業務
- 重複した業務
をしていることが少なくありません。
本質的には処理しなくても良いことを作業しているケースはたくさんあります。
重複した業務:結果は同じでもプロセスが異なる業務のこと。
RPAを導入する際は必要のない業務・重複した業務は思い切ってやめましょう。
こうすることにより、業務全体のスループットを格段に上げることができるようになります。
3.現物排除
現物排除とは、業務プロセスの効率化・自動化を検討する際に「必要のない現物をなくす」ことです。
現物って何かということですよね?
例えば、紙で印刷した申請書や決裁書はもちろんのこと、そこに押すためのハンコや取引先から送られてくる請求書などです。
- 情報システムやオフィスツールなどでデータを処理しているのに、
紙の帳票に出力して、部門の責任者が承認(押印)して、
他の部門にデータを渡す - ワークフローのシステムが入っているけど、承認は「紙」と「ハンコ」
このような処理をしていると、なかなか業務のスピードは上がりません。
ロボット化を検討する場合には、「現物」に依存している業務も見直しを行う必要があります。
シンプルに「この資料は紙の状態で一定期間保管する必要があるのか」という視点で考えましょう。
一度、業務プロセスの入り口をデジタルデータ化してしまうと、業務全体を情報システムで自動化することが可能になります。
もちろん、新たに情報システムを作らなくても、RPAを使ってデータを情報システムに登録したりすることも可能です。
そのため、現物を排除することは結構重要なことです。
4.判断業務と自動化業務の仕分けと集約
業務を見直すにあたって重要なことは、
・ルールが決まっていて、条件が決まれば自動で処理できる業務(定型業務)
・人の頭で考えて意思決定しなければならない業務(非定型業務)
を仕分けすることです。
RPA化する際に注意しなければならないのは、判断業務は「定型業務」と考えることです。
なぜなら”判断”はしてもルール通りに処理しているだけだからです。
よって、ルールに基づく判断業務は定型業務で自動化の対象となります。
- ルールが決まっていない
- 判断する条件があいまいで毎回人が考えて意思決定しなければならない
などの業務が「非定型業務」であり、RPAでは自動化することは難しいです。
しかし、これらを整理して業務の見直しをすると、ロボットにより多くの仕事をしてもらえるようになります。
定型業務と非定型業務を仕分けした上で、次のような点を考慮してみてください。
- ロボットが並行して処理ができるように手順を見直す
- 夜間・休日でもロボットが働けるように手順を見直す
ロボットは処理するデータさえ、きちんと役割分担できれば、同じ処理を複数のロボットで分担して処理することができます。
ライセンスをその分多く揃える必要があり、コストがかかります。
ロボットは夜間・休日など関係なく、ルールに基づき仕事を続けることが可能です。
上手くいけば、月末や期末など残業や休日出勤が重なりがちな時期の業務の負荷を大幅に削減できるようになります。
5.業務の標準化・共通化
企業の中では色々な業務が行われていて、大抵の場合は、全社で共通の情報システムなどを使用しています。
そのため、皆が同じルールかつ同じ手順で処理していると思われるかもしれませんがそうではありません。
例えば、海外から原材料を調達するために発注処理を行うとします。
しかし、国や地域で発注に必要な条件や必要となる資料が異なったりします。
そのため、同じような業務でも部門により手順などが少しずつ異なっていたりします。
また、同じ人が長く担当していると、効率的に作業を行うために、個々に業務の手順を工夫していることも少なくありません。
そのようなことが積み重なると、本来同じ手順で処理していたものが、担当する組織や人により少しずつ異なってきたりします。
前者の例はともかく、後者の例をそのままロボットで開発してしまうと、本来一つのロボットを開発すれば良かったところが、処理の仕方が少しずつ違うロボットが担当者分できてしまいます。
こういう事態に陥ると、
- ロボットを修正する際にミスをする可能性が上がる
- 時間や費用がより多くかかる
など良いことはありません。
本来、インプットとアウトプットが同じであれば、ロボットは一つで良いですよね?
以前お話しした「業務を棚卸する」ことの意味がこういうところに出てきます。
そこで、ロボットを作り始める前に業務の標準化・共通化を検討しましょう。
6.まとめ
「RPAを入れるのって大変だな」と思われてしまったかと思いますが、一度ルールを作って始めてみるとそんなに大変なことはありません。
ただ、普段やっている仕事の手順をそのままロボットで処理しようとすると、思ったように動いてくれないなと思われることも多いと思います。
ご紹介したように、人が考えながら処理している手順も自動化されてしまっていることが多いからです。
まずは、業務の無駄をなくして、整流化するところから考えてみることをお勧めします。
進藤圭さんが書かれた「いちばんやさしいRPAの教本 人気講師が教える現場のための業務自動化ノウハウ」(インプレス社)等も読んでみると参考になると思います。